composer notes

2019-M3春にて頒布した「過去の塔が在る町」。イベント合わせの突発の新譜でありながらも、お手に取ってくださった方ありがとうございました。

普段はあまり設定や裏側を公開することはないHagallのコンセプトCDですが、本CDは今回ジャケット内での説明などが一切ないため、この特設ページ内でコンポーザーノーツとして簡単な楽曲説明を置かせていただくことにしました。

<内容について>

今回のCDは、タイトルの文字通り『過去の塔』というものがテーマです。架空の街には、「過去の塔」がそびえ立っていて、そこに街の人々は入れません。選ばれた者しか入ることが出来ない塔と言われています。

以下、想定していた簡単な設定を箇条書きで書き残します。
・雪がちらつく冬、商業がさかんな貿易の町が舞台。
・誰も入れない「過去の塔」。しかしそれを観光名所にしつつ、町は盛り上がる。
・”ある旅人”は、なぜか誰も入ることのできないその条件をクリアし、そこの塔の中に入ることになる。
・塔の中に入る条件は、その塔の中にいるたった1人の人間のことを”覚えていること”

自分用のメモなのでずさんですが、人の記憶の曖昧さや、流れ移ろって消えていくモノ、というものを表現するための設定になっています。

以前出そうとして中止にしたIcaruというCDがあり、それを引き継いだのがFragmentというCDだったのですが、今回全く同じ世界観がテーマです。また、サイト上で音楽素材として公開している「時のない塔」も同じテーマです。

ストーリーCDではないので、詳しいストーリーは割愛します。しかし、結果として”ある旅人”は塔の中に閉じ込められてしまい、出てこられなくなってしまいます。塔の中で対峙するのは「過去の自分」であり、「過去の記憶」です。

嫌な記憶や、思い出したくないことというのは誰にでもあると思いますが、逆に強く記憶に焼き付けるには「反復して記憶すること」だと言われています。「エビングハウスの忘却曲線」によれば、人が覚えたことというのは1時間後には56%忘れてしまうそう。
例えば10年前のことを一言一句覚えている人はおそらくないでしょう。しかし突然、過去の自分が現れる状況に陥ったら、あなただったらどうしますか?温かく見守れるのか、見てられないと耳を目を塞ぐのか。まったく思い出せないと、首をかしげるのか。(ちなみに私は2つ目です…。)

そもそもHagallのコンセプトとして、「架空の設定としてのファンタジー世界がベースにありながらも、起きる事象、人の心の動きは現実的である」ということが前提に流れています。曲調自体は民族調であったりクラシカルであったりはしつつも、どこか現実的でどこか納得のいく物語がそこにある…というものを作れないかと毎回試行錯誤しながら作る…というのが定番であります。

結局のところ語ることには慣れていないので曖昧な表現ばかりな解説だったかと思います。
しかし聴きながら、少しでもそのセカイを想像してもらえたら、幸いです。

<トラック>

01. town
そこは雪がちらつく白い世界、しかし商業がさかんな貿易の町。町は沢山の露店が立ち並び、人々が行き交っている。そこに”ある旅人”が足を踏み入れる。

02. tower
誰も踏み入れたことなかった、過去の塔の静けさ。外は風もなく、シンシンと雪が降り積もる。1人、塔の内部に入り、階を上へと進む。

03. confronting
過去の自分と対面する。

04. good night
自らそこに留まるのか、それとも出られなくなったのか。わからないけど1つ言えることは、決して不幸ではないということ。だから、安心してお眠りなさい——。